SCA-7510レポート |
1.概要
BPから新しくコンパクトアンプSCA-7510完成品とSCA-7510Kキットが発売されました。
SCA-7510完成品 ※写真のイヤホンは付属しません。 |
SCA-7510Kキット (YASUさん作) ※キットではケースも塗装されていません。 |
特徴は、パソコンで使用するような小型スピーカーを駆動できるとともに、ヘッドホンでもSATRI回路の高音質をそのまま聴けるようにした点です。サイズも机の上に置ける小型サイズですので、多様な使い方をお楽しみいただけます。
SCA-7510(K)は、当初ヘッドホン専用アンプという位置付けで企画されましたが、インターネット時代ではパソコンの近くで使用する機会が増えて来ているため、コンピュータのサウンド環境も良くしたいということで、小型スピーカーも駆動できるだけの電源と出力段を追加することになりました。結果的に4.5W+4.5Wという出力ながら、一般的なスピーカーを駆動するには十分な出力が得られました。
また、副次的な効果として、ヘッドホン用として使用した場合、高感度のヘッドホンなら破壊しかねないほどの駆動力を得ることができました。現在市販されている他のヘッドホン専用アンプではACアダプタを使用したものや電池式のものがありますが、それらとは明らかに違います。
SCA-7510(K)の主な用途としては、以下のような使い方があります。
2.SCA-7510(K)の外観と特徴
SCA-7510(K)は、市販のヘッドホン専用アンプに比べ、次のような特徴を持っています。
正面 |
裏面 |
正面には標準ジャックのヘッドホン端子が2個付いています。右端が電源スイッチ、左端が入力切り替えスイッチです。入力切り替えは2系統のため電源スイッチと同じく上下に動くスナップ式です。つまみはベークライト削り出しになっています。前面パネルは、AMP-5511と同じく5mm厚アルミ板を木目模様に塗装しています。ボディは薄茶色に塗装されています。ケースは全てアルミ製になっており、これがそのまま放熱器として使用されています。
背面にケーブル類を接続するとこのようになります。スピーカー端子は写真のようにバナナ端子を使用するのが良いですが、ケーブルを直接差し込んで固定することもできます。電源コードも標準の3ピン式ですので、市販のオーディオ用電源ケーブルを使うこともできます。
3.準備:試聴用ヘッドホン
STAX SR Λ Signature |
AKG K501 |
Sennheiser HD580 |
MX500 |
MX400 |
MX300 |
まずはSCA-7510用のヘッドホンを用意しなければなりません。標準として、STAXとAKGを用意しました。STAX
SR Λ Signatureは古いモデルですが、試聴した結果、音は現在でも問題なく通用します。これはSCA-7510のスピーカー出力から取り出し、専用の昇圧トランスSRD-7/Mk2を通して駆動しています。SCA-7510のヘッドホン出力は、スピーカー出力を抵抗で落としただけのシンプルな構成ですので、どちらから取っても同じ傾向の音になります。
※STAX
SR Λ SignatureおよびSRD-7/Mk2は現在発売されていません。
ちなみに、ヘッドホン端子にプラグを差し込むとスピーカー出力が切れます。2個あるヘッドホン端子は、両方同時に鳴らすことができますので、2台のヘッドホンを同時に鳴らして比較することができます。ヘッドホンのインピーダンスは4Ωから600Ωまでどれでも使用可能です。
SCA-7510完成品とAKG K501 |
Sennheiser HeadMaxシリーズ |
ヘッドホン端子からの音を聴くためのヘッドホンはAKG K501を用意しました。他にも現在販売されているヘッドホンとしてはSennheiser
HD580かHD600あたりが標準的に使えそうですが、他社の製品も店頭で一通り聴いてみました。SONY、Victor、DENON、AudioTechnicaなどを試聴しましたが、それぞれ価格相応という感じでした。各社とも音作りがだいぶ違い、スピーカーよりも差が大きいと感じます。
AKG K501は、試聴した中では解像度が最も高く、細かい音まで出て好ましかったことと、価格的にも2万円台前半で買えますので、実売5万円台のHD600に比べればかなりお買い得です。同じAKGでもK401以下の機種はK501に比べて多少大味な鳴り方になっています。K501のインピーダンスは120Ω 94dBと、他のヘッドホンの能率よりだいぶ低いため、店頭では少し地味な鳴り方になり音量も低いです。店頭で使用しているアンプが120Ωにきちんと対応しているかどうかもわかりませんが、装着感は耳に触れないように耳の周辺をすっぽり覆う形になっているため耳が潰されず、楽です。この点はSTAX SR Λ Signature、Sennheiser HD580/600、K501とも共通です。
Sennheiser HD580とHD600は店頭になかったため購入時には聴いていません。HD590は店頭ではもうひとつという印象でした。HD570はインピーダンス64ΩとHD590の半分になっていて、えらく鳴りっぷりが良いです。明らかにドンシャリで、HD590とはかなり違う鳴り方をします。高域は派手ですが質感がいまひとつという感じでした。Sennheiserのこれ以下のモデルは質感が一段落ちる感じがしました。
もう1つ、ポータブル用のインナータイプのものも比較用に用意しました。こちらも各社からかなり多くの種類が出ています。価格的には数千円以内のものがほとんどです。AKGはありませんでしたが、SennheiserのHeadMaxシリーズのMX300、MX400、MX500というモデルがあります。価格は、MX300で\1,280、MX400が\1,780、MX500で\2,380と安いです。これらはミニプラグ専用なのでSCA-7510に接続するには標準ジャック変換用アダプタを使います。HeadMaxはどれもインピーダンスが32Ωです。能率は116dB(MX300)〜119dB(MX400,MX500)となっていて、AKG
501の94dBに比べるとだいぶ高くなっています。
4.試聴に使用したヘッドホンのSPEC
MX300
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MX400
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MX500
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HD580
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K501
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Λ
Signature
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f特
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18-20KHz
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18-20KHz
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18-20KHz
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12-38KHz
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16-30KHz
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8Hz-55KHz
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インピーダンス
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32Ω
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32Ω
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32Ω
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300Ω
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120Ω
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---
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感度
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116dB
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119dB
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119dB
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97dB
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94dB
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---
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ケーブル長
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1m
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1m
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1m
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3m
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3m
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2m
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5.試聴時のシステムと音量
試聴時のシステム CEC TL-5100+DAC-2000 |
試聴時のシステムは右の写真のようになっています。CEC TL-5100にDAC-2000を接続し、SCA-7510に接続してヘッドホン端子から出力します。STAX
SR Λ Signatureだけはスピーカー端子から出力を取り出して昇圧トランスのSRD-7/Mk2を通して鳴らしました。
SCA-7510のボリュームは、開始位置7時から始まり、時計と同じ位置にマークが付いています。大まかですが、各ヘッドホンおよびDynaudioの2WAYスピーカーで鳴らしたときの大体のボリューム位置を示します。
使用ヘッドホン/SP
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ボリューム位置
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MX300
MX400 MX500 |
7:30-8:00 |
K501
HD580 |
9:00-10:00 |
STAX
SR Λ Signature |
10:00-11:00 |
Dynaudio
SP(86dB)
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10:00-2:00 |
このように、ヘッドホンでは12時を越える音量を出すと耳を壊すくらいの音量が出ますので、感度の良いヘッドホンを使用するときは注意した方が良いでしょう。
6.各ヘッドホンの音
SCA-7510は完成品のため、全く手を入れない状態で5日ほど常時通電したままときどき音を確認する方法でエージングしました。本格的な試聴は5日後に行っています。最初の2日間はエージング不足で低音が出ません。この段階では、MX300/400/500は低音寄りの音なのでちょうど良いバランスでした。試聴時のソースはCEC TL-5100+DAC-2000の出力をつないで行っています。
(※以下の音質評価はあくまで参考としてお読み下さい。)
ヘッドホン
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試聴時の印象
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Λ Signature |
ダイナミックヘッドホンでは出ない繊細な音、全帯域に透明感のある音、広大なレンジ、帯域バランスともリファレンスとして使用できます。現在でも最高の音質と思います。 |
K501 |
STAXより聴感上のレンジが多少狭くなりますが、ダイナミック型としてはかなり良い方だと思います。STAXとはまた違いますが、高域の繊細さが特徴です。高解像度タイプの音です。アンプやCDプレーヤーが弱いと低音が多少弱くなります。アンプやCDプレーヤーの組み合わせで、高域が少しでもきつかったり低域が出にくかったりするとすぐにわかります。 |
HD580 |
K501とは反対の傾向です。中域から低域にかけてボリューム感のある音です。高域は柔らかく聴きやすいバランスです。高解像度というより聴き疲れせず、音楽をゆったり聴けます。 |
MX500 |
MXシリーズの中では最も良いバランスで、品位が高い音です。低音たっぷりで中域以下が大きく膨らんだ音作りです。さすがにHD580とは比較できませんが、この音に馴れればそれなりに聴けます。 |
MX400 |
MX500の中域以上を落としたようなバランスです。MX500よりさらに低音過多になります。モコモコした音なので、ポータブル機器であまり低音の出ない機器に合うと思われます。 |
MX300 |
MX500のバランスのまま、上下のレンジを狭くしたバランスになっています。質感は1ランク落ちますが、MX400ほどモコモコした音ではありません。 |
7.SCA-7510完成品の音
これだけ各ヘッドホンの音色の違いがありますので、SCA-7510の音を正しく評価するのは難しいですが、SCA-7510の音よりも、使用したヘッドホンの品質と音の傾向がそのまま出て来ると考えればほぼ正しいと思います。SCA-7510の音色はヘッドホンの音と比較すると、ほとんどないと言って良い程度です。
少なくともSTAXで再生できた音はSCA-7510から出力されていますから、STAXで聴ける音は出ていると見て良いと思います。それ以外のヘッドホンではまだそこまで再生できていないとも言えます。このまま何の手も加えなくてもヘッドホンアンプとしてかなりのレベルに達していると言えるでしょう。
SCA-7510完成品は音量調節にボリュームを使用していますが、この部分をAMP-5511/5512のオプション・アッテネータに交換するとさらに鮮度の高い音になります。
SCA-7510は、使用するCDプレーヤーがあまり良くなかった場合、その違いをはっきり出してきます。今回の試聴ではCEC TL-5100+DAC-2000で行いましたが、他の機器を接続した場合は当然音の印象が変わって来るはずです。電源ケーブルやコンセントの差も出ますので、好みの音に鳴らなかったときは、電源ケーブルやCDプレーヤー、ピンケーブルなどをいくつか交換するなどして調整すると良いでしょう。
8.SCA-7510内部
9.SCA-7510Kキットと完成品の違い
SCA-7510完成品の基板には、あらかじめ音に影響する部分にDALE巻線抵抗が取り付けられています(写真参照)。キットと完成品の音質上の違いはこの抵抗の差だけです。
他には、塗装されたケースと前面化粧パネルが違います。また、キットは当然組立られていません。違いはこの3点だけです。
完成品は、DALE抵抗の搭載と組立費用、塗装ケースまで入れてわずか1万円しか高くなっていないというのは驚きです。最も手軽に良い音を手に入れるには、完成品にアッテネータキットを組み込むのが良いでしょう。後は配線材の交換程度でさらに良くなります。
キットは、1円でも安く買いたいときや、自分で組み立てて楽しみたい場合、全部の配線をお気に入りのものにしたい、ケースの色やデザインを変更してオリジナルのものを作りたい、回路を改造して使いたいなどの場合に向きます。
10.オプションアッテネータ
どちらもオプションで抵抗アッテネータが使用できます。SCA-7510完成品にDALE巻線抵抗アッテネータを仮付けしてみました。音質はやはりボリュームとは異なり、透明感が増し、音の解像度も高くなります。
オプションアッテネータを取り付けるときの注意ですが、キットの場合、前面パネルの取り付け穴がわずかに小さいため、セイデン製ロータリースイッチのナットが入りません。穴径をリーマなどで1mm程度拡げるか、またはボリュームに使用されているナットを流用することで取り付け可能です。
完成品の場合は、前面パネルのボリューム穴がつまみと同じサイズに拡大されているため、全く問題なくボリュームと交換できます。
音質は、ボリュームの場合と比べて音の鮮度が上がります。どのようなソースを聴いても納得できる鳴り方です。場合によってはCDプレーヤーやケーブルなどの癖がわかってしまい、かえって欲求不満になるかも知れません。SCA-7510の真価を発揮させるにはやはりアッテネータが必要のようです。
11.パソコン用アンプとして使用
元々、パソコンのサウンド環境を良くしようとして生まれたSCA-7510なので、パソコンの横に置き、パソコンのCD-ROMにつないで使い勝手を見てみました。SCA-7510は奥行きがありますので(奥行29cm)液晶モニターを使用している場合は別の置き方にしないと邪魔になりますが、写真のように17インチCRTモニターの横に縦置きで使うとぴったりで、パソコンのサウンド環境を大きく改善できます。
今まであまり本気でパソコン用CD-ROM内蔵のヘッドホンの音を聴いたことがありませんでしたので、たまたま使っているMITSUMIの16倍速CD-ROM(FX-162T)とYAMAHAのCD-RW(CRW8824SX-VK)に内蔵されているヘッドホン出力で聴いてみました。どちらも前面パネルにボリュームが付いています。
MITSUMIはメリハリがありますが荒い音です。YAMAHAの方が本格的で落ち着いた音がしますが、低音が弱くふわふわしていてAKG K501を駆動し切れていないのがわかります。高域もオフ気味です。BGMとして使う程度ならこれでも良いのかも知れません。
ヘッドホンの鳴り方の違いはCD-ROMでも良くわかります。MX300/MX400/MX500は、中高域から中低域までを持ち上げてプレゼンスが良く、聴きやすい音作りになっています。SCA-7510では低音が出過ぎのバランスでしたが、HeadMaxシリーズはこれらの機器に合わせて音作りされているように思います。感度も高く、インピーダンスも低いのでCD-ROM内蔵のアンプで楽にドライブできています。この3モデルは性能的にもほとんど同じなので音もほとんど同じと思いましたが、実際に試聴してみるとCD-ROMで聴いてもMX500が最も明瞭な音質で聴感上のレンジが広いのがわかります。MX500にだけスライド式ボリュームが付いています。これがどの程度音質に効いているのかわかりませんが、音質的にはない方が良いと思います。AKG K501はワイドレンジで中域が膨らむということはありません。低域もむやみに膨らむことなくしっかり出ますし、高域も繊細ですが、CD-ROM内蔵アンプでは鳴らし切れていないのが良くわかり、K501の実力を発揮できていないようです。HeadMaxシリーズは、絶対的なクオリティではK501にとても及びませんが、直接比較しなければCD-ROMとの組み合わせで充分聴けます。
CD-ROM、CD-RW内蔵ヘッドホンアンプの音は、特にノイズが多いということはありませんし、音量の点でも小さ過ぎて困るということはありませんが、音の透明度、低音の押し出し、高域の質感、定位、音全体の品位の点でやはり音楽鑑賞用としては厳しいと言わざるを得ません。スピーカーから出る音に比べると、全体に音の輪郭がはっきりせずもやもやしていています。
12.まとめ
音質から見た場合、「試聴屋」のお勧めは文句なくSTAX
SR Λ Signatureです。しかし、このモデルはもう販売されていませんし、同じく昇圧トランスのSRD-7/Mk2も販売されていませんので、これからSCA-7510(K)と組み合わせて使用することはできません。ヘッドホンは現在販売されている製品が購入できるにしても、アダプタはSTAX専用アンプになってしまいます。STAX専用アンプも良いのですが、いくつか用意されているモデルはどれも違う音がするため、どれか1つに決めてしまうと、ずっとその専用アンプの音を聴くことになってしまいます。純粋にSATRIアンプの音を聴くことができません。どうしてもSCA-7510(K)でSTAXを鳴らしたければ自作するか、BPからSTAX用のアダプタが出ることを期待するしかありません。
ダイナミック型ヘッドホンとしては、Sennheiser HD580/600が良く挙げられますが、STAXに次ぐワイドレンジと解像度の高さでAKG K501をお勧めします。
最終的には、SCA-7510(K)のボリュームを抵抗アッテネータに交換したものと、これらのヘッドホンのどれかを組み合わせたものが良い結果になります。
13.SCA-7510仕様
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型 番
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SATRI
Compact Amplifier SCA-7510(K)
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増幅方式
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SATRI方式
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入 力
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2系統
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出 力
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4.5W+4.5W
(8Ω 10%歪時)
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入力インピーダンス
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100KΩ
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適合スピーカーインピーダンス
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6Ω〜8Ω
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適合ヘッドホンインピーダンス
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4Ω〜600Ω
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ノイズレベル
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VR最大50μV(Aカーブ)
VR最小1μV以下(Aカーブ) |
L
E D
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黄色
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SP端子
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オーディオ用金メッキ端子
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ヘッドホン端子
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標準ジャック x 2個
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ケース
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完成品:塗装あり、前面パネル付き キット: 塗装なし、前面パネル付き(印刷なし) 縦置き可能 |
サイズ
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(W)230mm
x (H)60mm x (D)290mm
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価 格
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完成品 \68,000
(税別)
キット \58,000 (税別) |
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出力 (W) |
4Ω
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0.013W
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8Ω
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0.025W
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10Ω
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0.03W
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16Ω
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0.04W
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20Ω
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0.05W
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30Ω
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0.064W
|
50Ω
|
0.08W
|
100Ω
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0.09W
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250Ω
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0.074W
|
600Ω
|
0.04W
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