SATRI-IC Ver5.1ができました! |
SATRI-IC Ver5.1 |
3月にSATRI-IC
Ver3.0が発売されたばかりですが、突然BPからVer5.1の石が送られてきました。3月に発売されたSATRI-IC Ver3は、回路バージョン4の3回めの改訂版ですのでVer4.3とでも呼ぶべきものですが、今回はその回路バージョン4をさらに改良させるための石として作られています。基板材料は、見た目ではわかりにくいですが、FRP-4というレジンを使った高級基板を使っています。なお、テフロン基板を使ったICも少量製作されるとのことです。
SATRI回路は10年以上前に最初のVer1.0が考案され、少しずつ改良されて現在に至っています。IC化されたのがVer4の回路のときですので、それ以降基本的な回路構成は変わっていません。IC化されて以後、ICの動作をより精密に、より正確にして行くことで再現される音楽の情報量が上がって行くことがわかってきました。ICの動作をこれまで以上に精密にするには、バイアス電流そのものの変動を抑えると同時に、ICに大きな信号が入ったときでもバイアス電流変動が起きないようにする必要があります。これを行うため、AMP-5520ではICの外に定電圧回路を複数配置する方法を採っていましたが、回路規模が大きくなるため価格が高くなってしまいました。
そこでVer5では単体のSATRI-ICではなくVer4の回路を補強し、Ver4と一体になって動作する仕様として設計されました。今回製品となったV5.1ではさらに温度補償回路が追加されています。当初は全回路を1パッケージにする案もあったそうですが、そうすると基板サイズが大きくなってしまい、ピン配置も互換性がなくなってしまうため、これまでに販売された製品に取り付けられなくなること、現在動いている回路に追加するだけで、すぐに最新の回路にバージョンアップできることを優先した結果、Ver.4との2段重ねにすることになったということです。これまで、AMP-5520以上の高級モデルにしか搭載されなかった回路が、ほとんど全てのSATRI製品に簡単に追加可能という形で実現されたことに拍手を送りたいと思います。
基板上にはチップタイプのOS-CONが2個最初から搭載されています。その他に、CRDを取り付けるパターンが用意されています。ここに、従来基板に取り付けてあったCRDをはずして取り付けます(右の写真をクリックすると大きな画面で見られます)。写真ではいろいろ実験するためにソケットを使っていますが、通常は直付けして使います。
これを、これまでのICの上に重ねます。こちらの写真もクリックすると拡大します。こちらもソケット経由で取り付けていますが、通常は直付けします。周囲の部品を何個かはずさないとうまく取り付けられないかも知れません。
このようにするだけで、最新のSATRI回路に生まれ変わります。今回は、Ver4.3のICと組み合わせましたが、それ以前のICにも同様に取り付けて使用できます。ただし音は最新のVer4.3と組み合わせた場合とは違うはずです。
メーカーでVer4.3とCRDの組み合わせで駆動した場合と、Ver4.3+Ver5.1を組み合わせた場合でバイアス変動を測定した結果、以下のような結果が出ています。上の黄色のラインがVer5.1です。Ver5.1と組み合わせた場合、電源電圧が最少定格の3Vから最大定格の12Vまで変動しても、ICに加えられる電流がほとんど変動していないことがわかります。これは大げさに言えば、いい加減な電源回路を使ってもICの動作にほとんど影響が及ばないことを意味します。CRDだけの場合、電源電圧が変動するとICに供給される電流も比較的大きく変わります。そのため、従来の回路構成では電源の規模が重要になり、巨大な電源トランスを使ったり、左右別電源化が有効な音質向上策となります。この性能の違いは、瞬間的に大きな信号が入ったときや、電源が弱いときに顕著に現れますが、小さい信号のときでもやはり微小領域で同じ変動が起っていると予想されます。
さて、肝心の音ですが、現在最新のSATRI-IC Ver4.3に交換しただけでも、かなり定位や低音の締まりなど改善されていて充分良くなっています。それにVer5.1を乗せただけでどのような音になるか、事前に予想することはできませんでした。交換後、1日ほどエージングした後で試聴に入りました。
今度のICの音(Ver4.3+Ver5.1の音)を一言で言うと、
「とにかく緻密または精密な音」と言えると思います。全体の雰囲気や音場はVer4.3だけのときと比べて高級感のある上品な音になります。良く聴き慣れた曲やお気に入りの曲をかけてみると、今まで数え切れないほど聴いた曲なのに、新しい音が発見できます。これは驚きました。主な楽器の後ろで隠し味のようにかすかにミックスされている音が何かわかってしまいました。「あ、こういう音が入っていたのか!」という発見があるのは楽しいものです。しかも、何度も聴いて全部知っていると思っていた曲でこのような発見があることが驚きでした。
再生が難しくて良く鳴らない曲、もやもやした音の曲や、やたらにいろんな音が入っている曲などをかけても何がどうなっているかがわかります。音の重なり具合や、バックに小さくコーラスと楽器が重なっていて聞き取りにくかった部分などがわかるようになります。
全体の音は、よく制動がきくようになっています。たとえばある部分で耳障りな音が聞こえていたとき、それが抑制され、特に耳障りでなくなります。
いろいろな曲を試聴して一段落した後、改めて聴き始めると、今度は別の発見がありました。なんと、トランスポート側の限界が見えるような気がしてきました。これまでは、標準で使用していたCEC TL-5100(写真下)+DAC-2000で特に大きな不満はなかったのですが、今回初めてトランスポートの限界を感じてしまいました。そこで、Esoteric P-0sがたまたま使える状態だったため、こちらで試聴してみると、全体にどっしりした音に変貌しました。さすがにクオリティはだいぶ上がり、新しいSATRI-ICとの相性もとても良さそうです。SATRI回路がここまで良くなって来ると、今度はP-0sに近いクオリティで手頃な価格のトランスポートの必要性を感じます。普及機ではLClockなどを搭載して良くしておかないと、せっかくのクオリティを入口で捨ててしまうことになりそうです。
SATRI回路もここまで完成度の高い音になって来ると、組み合わせる機器を良くすればするほどシステム全体のクオリティに大きな影響を与えるようになるということがわかってきました。しかし、P-0sクラスのトランスポートより上を求めるとなるとかなり大変なことになります。SATRI-IC Ver5.1はそれを感じさせてくれるICとして貴重ですが、同時にますますオーディオの深みにはまって行くような恐さをも感じさせるICと思います。
近日中に、Ver4.3を搭載した新シリーズのSATRIアンプ、およびVer5.1のIC単体での販売を予定していますので、ご希望のお客様はそれまでの間少々お待ち下さい。
補足:SATRI回路Ver4とVer5は併売されます。Ver5が発売されてもVer4がなくなるわけではありません。Ver4の回路を作るにはVer4.3のICがあればできます。Ver5の回路を作るにはVer4.3のICとVer5.1のICの2個必要になります。価格は各ICごとに付けられます。
メーカーからのコメント 今回の改良は、SATRI回路の弱点をクリアーすることが目的です。SATRI回路の弱点は電源変動の影響を受けることです。とは言っても、一般の抵抗負荷のアンプに比べれば定電流源を使っているSATRI回路はその影響は微小ですが、それでも影響を受けることは間違いありません。SATRI回路Ver5では定電流源にかかる電圧を一定にするスタビライザーを付けることによって電源電圧の変動をシミュレーション上で、20ppmから0.2ppmに減少させました。今回発売するVer5.1ではさらに温度補償回路をつけて温度に対する安定度も確保しました。 SATRI-IC Ver4.3ではカレントミラーのエミッタ抵抗を金属皮膜抵抗にして、精度を上げることによって、バイアス電流の精度を上げ、温度係数が低い抵抗を使うことによって、信号電流による瞬間的な熱変動による電流の変動も抑えました。SATRI-IC Ver4とSATRI回路Ver5.1を組み合わせることによって、非常に精度の高い再生を可能にすることが出来ました。トランジスタチップの接合温度の違い、PNPとNPNトランジスタの特性の違いなどの要因によりまだ完璧とは言えません。まだまだやることは沢山あるようです。 実は、Ver5は2年くらい前に設計が完了していたのですが、これまでやる必要があるのかという思いがあり、実行したのは去年の暮でした。しかし試聴してみて驚きました。今まで聞えなかった微小な音が聞こえ、演奏者の存在感まで分かって来たのです。弊社のポリシーは精度だと言っている本人でさえ、精度を上げることで、こんなに違うと言うことを思い知らされました。これからさらに研究を続けることによって、更なる精度の向上を目指したいと思います。 |