出川式電源
2006.09.17


出川式電源(1)

A.出川式電源とは何か?

 "出川式電源"という電源回路を知っていますか?
オーディオ用ショットキーダイオードを発売しているA&R社の出川三郎氏が開発した新しい電源回路です。正式には"第二世代シリーズ電源"という名前が付いていますが、わかりやすく"出川式電源"と呼ぶことにしました(出川氏からも了承を得ています)。

・電流欠落問題

 通常のアナログ電源は、電源トランス→ダイオード→電解コンデンサ→負荷(アンプなどの回路)という流れで必要な電流をアンプに供給しています。100万円を越えるアンプでもアナログ電源はこのようになっていますので、一般にはこれで充分と思われています。しかし、実際には、ダイオードには順回復時間/逆回復時間があり、この間は負荷に供給する電流が不足します。時間にして約数百μ秒ですが、この電流供給不足が1秒間に100〜120回(電源周波数の2倍)起こります。

 もう1つ、電流不足が生じるタイミングがあります。それはダイオードと電解コンデンサの電位差がほとんどないときと。電流は電位差があれば流れますが、電位差がなければ流れません。ダイオードと電解コンデンサ間の電位は常に変化しているため、電位がほぼ同じになる瞬間があります。このときもやはりダイオードから電解コンデンサには電流が供給されません。さらに言えば、電解コンデンサよりダイオードの方が電位が低くなったときも電流は流れません。

 回路図だけ見ていると、いつも必要な電流が供給されるように見える電源が、実際には断続的にしか電流を供給していないわけです。つまり、電流が供給されない間にアンプが大きな電流を流そうとすると、瞬間的に電解コンデンサに充電されている電荷だけで必要な電流をまかなわなければならず、瞬間的に大電流が流せる高性能コンデンサでないと、アンプの動作が制限されてしまう結果となります。見た目巨大な電源トランスと大容量の電解コンデンサが搭載されているアンプでも、このようなことが起きている可能性は充分あります。

・リップル問題

 電流の供給問題とは別に、電源回路にはリップルという電圧変動があります。電源の出力には必ずあるものですが、出川式電源ではこのリップルが同じ容量の電源で比較して約1/2になるという大きな利点があるのです。

 理想的には、リップルはゼロになるべきですが、交流を整流する以上ゼロにはできません。リップルを減らすには電解コンデンサの容量を増やしていくと少しずつ減っていきます。電荷を溜めれば溜めるほど有利というわけです。しかし、やたらに容量を増やすと電解コンデンサの価格も上がりますし、ケースに入らなくなります。また、電源に使うには容量だけ大きくてもダメで、瞬時電流供給能力が高くなければなりません。瞬時電流供給能力が高く容量も大きな電解コンデンサはそれだけで高価です。では、現在電源に使われている電解コンデンサを利用してリップルを半分に減らせるとしたらどうでしょう。コストもそれほど上がらず、電源を2倍以上にしたのと同じ効果が得られるとしたら。

 それができるのが出川式電源です(後に示す実装例をご覧下さい)。

・放電中の電流供給問題

 ダイオードと電解コンデンサの関係は一見単純なようですが、ダイオードが電解コンデンサに給電している時間は、放電している時間に比べかなり短いです。1サイクルの間の充電:放電時間の比率は約1:9です。ダイオードが1充電した後、電解コンデンサが9の時間放電するわけです。このように、電源のほとんどの時間は電解コンデンサの力で電流を供給することになりますが、電解コンデンサの容量が小さかったりアンプが大きな電流を消費すると電流不足となり、次にダイオードが給電するまでの間、電圧降下が生じます。給電されると下がった電圧が戻り、また消費されて下がりと繰り返します。リップルとは違いますが、これも電圧変動の原因になります。

 出川式電源は、これらの問題を独自回路と補助電解コンデンサを追加することで解消します。
(※なお、出川式電源回路は特許出願中のため無断で商用利用できません。)

 出川式電源の実装図を示します。赤い線の部分が追加する補助電解コンデンサの配線です。図のように電解コンデンサを追加するだけでごく簡単に実装できます。出川式電源はモジュール化されています。出川式電源を個別に組み立てるのは面倒ですが、出川式電源モジュールを使うと面倒な部分は全てモジュールの中に組み込んであるため、これだけ単純にできるのです。

 SATRIアンプのようにプラス/マイナス電源を使う回路と、デジタル回路や真空管アンプのように正電源だけで良い回路がありますが、出川式電源モジュールは配線を変更するだけでどちらにも対応できるようになっています。デジタル回路は5V、12V電源を使うことが多いので右側の図の配線で使います。デジタル機器にはスイッチング電源が使われていることがありますが、消費電力が少ない場合は出川式電源に置き換えることができます。デジタル機器の電源を通常のアナログ電源に換えると音質が向上することが多いですが、出川式電源に換えるとさらに良くなるはずです。



 まとめると、通常のアナログ電源との違いは、

 ・リップルが少ない(電源ノイズが下がる。2倍以上大きな電源と等価)
 ・リカバリー時の挙動が改善される
 ・コンデンサの放電時の性能が改善される
 ・これらの結果として、音質が大きく改善される

です。アナログ電源を搭載している機器には全て実装可能なので、手持ちのCDプレーヤー、DAC、クロック、イコライザー、市販アンプ全てに搭載可能です。


 一例として、出川式電源をSATRIアンプPRE-7610Mk2とAMP-5512Kに搭載したお客様からの改造・試聴記を掲載致します。なお、SATRIアンプをお持ちのお客様には出川電源改造サービスを予定しています。
詳しくは来週お知らせ致します。個別のお問い合わせはメールでご連絡下さい。

東京のT.K様より

 ご無沙汰しております。PRE-7610Mk2とAMP-5512Kの改造やセッティングをのんびりしているうちに1カ月が過ぎてしまいました。

 AMP-5512Kは、SATRI-LINK専用化とV8.0化を同時に行い、単体で使えなくしてしまったため、V8.0回路の導入効果は確認できませんでした。したがってプリの導入効果についてもどうこう言えません。いきなり出川式電源どうしの組合せ。やはり従来のAMP-5512K時代とはまるきり別物です。音の出方が一変しました。とても面白く楽しいですね。今まで後ろを向いてこちらに顔を見せずにいた楽器達が、突然くるりと正面に向き直り、初めて素のままの表情を見せて踊りだした。これが最初の音が出た時の第一印象です。「お〜、みんなそこにいたのか!」と、何とも言えない懐かしさに襲われたような、変な喜び方をしました。正直、感動です。音達が楽しんでいる。これが音楽なんだね。--そんな感想を持ちました。今までと別次元のリアリティがあります。また、音像がホログラムのように定位するので、どこで聴いても楽しいです。

 PRE-7610Mk2については、信号ラインの抵抗とフィルムコンを勝手に交換しました。難点は、左chのみ若干ハム音が出ることです。ゲインに比例して大きくなるので、初段FET〜SATRI-IC〜アッテネータのどこかに発生源が……。右chは完全無音なのにと思うと、何とかしたい気もします。しかし耳をSPにくっつけない限り聞こえないので、そのうち忘れてしまうかも。

 さて本題の出川式電源です。改造は自己流で行い、とても簡単にできました。

 ◆PRE-7610Mk2は、補助電源のスペースを作るために電源基板を90度回転させ、3端子レギュレータは床から起こして厚手のアルミL字板に装着。3端子レギュレータは終段FETのアイドリング電流のせいでかなり発熱するので、アルミL字板とシャーシの結合(熱結合)をしっかり行うことと、補助電源のコンデンサを出川式電源モジュールの(+)(-)と最短距離配線することの2点を心がけました。使用したコンデンサは三洋の3900μFの代用品で、サイズとたぶんESR値も同じであろうニチコンPW25V4700μFを使用。

 ◆AMP-5512Kでは、2枚あるOSコン電源基板の片方を補助電源に使うのはやめました。OSコン40本の長大サイズ基板は補助電源としては異常すぎる気がしたもので。補助電源のコンデンサは容量だけでなく種類も同じでないとインピーダンスマッチング素子が適切に機能しないのではないかと思いますが、ここは思いきり妥協して液体コンデンサの侵入を許し、±各PW25V3300μF×3=9900μFで良しとしました。結果、出川式電源モジュール以降は従来どおり一応左右別電源で、SATRI-ICとV8.0回路は±15V二段ダーリントン定電圧電源から、DCサーボ回路は±15V3端子レギュレータから供給という構成に落ち着きました。ちなみに現在のAMP-5512Kは、SATRI-LINK化のおかげでしょうか、もはやハム音は完全に消えました。

 従来のコンデンサ・インプット回路では避けることのできない、毎サイクル数百μs前後の電源の欠落。これを補助電源からの電流供給で補い、失われていた10%の音楽信号の再生を可能にする。さらに音のスピード感、倍音の美しさ・・・。実測データに裏打ちされた出川氏のこのような説明は大いに納得できるわけですが、この新型電源が新世代SATRIアンプと合体した時、一体どんな音になるのやら。たしかに変わるだろうし、その変化の方向はもちろん悪かろうはずはない。でもちょっとイメージできないなぁ、等々と思いつつ、とにかく補助電源仮接続状態で1曲かけてみました。

 ・・・いきなりストレートパンチが飛んできました。本当に、文字どおり音像のパンチが。1枚目に選んだジャズ、1曲目冒頭のウッドベースの「ブルルン!」という音像のエッジが、約2m離れて聴いていた私の鼻面までグンと伸びてきてぶつかりそうになったのです。これには面食らいました。もちろんこんな経験は生まれて初めてです。

 何とも極端な音が録音されていたものですが、しかしそのおかげで、「出川式電源の効用その1」がすぐに判明しました。1枚通して聴き、"音像の三次元的描写力"が格段に向上することが確認できました。1つ1つの音像が、前後方向にも、くっきりと浮き彫りになります。立体感がより鮮明になり、一段と彫りの深い音場が展開します。

 さらに、音の強弱・ダイナミズムが鮮やかです。そして余韻やニュアンスといった微細な情報は、たしかに全帯域にわたって一段と増えています。

 このように、音の実在感が増すだけでなく、音質自体も変化するようです。何というか、分厚くて、滑らかな音色。『まるでマスターテープを聴いているようだ』という、アナログレコードの時代に使われた表現を思い出しました。

 出川式電源は、オーディオ電源の正常進化であり、それによる音の変化は全て正しい変化として受け入れよう、そういう意識で改造を行いましたが、幸いというか当然というか、変化はすべてが好ましいものでした。この回路を教えて頂き本当に有難うございます。この出川式電源は、"超精密描写"を誇る新世代SATRIアンプに新たな魅力をプラスしてくれます。というより、その美点をより十全に引き出してくれる電源だと言えるでしょう。V6+V8化されたSATRIアンプでさえ、聴く楽しさが倍増します。私としては、V6回路やV8回路とともに、これからのSATRIアンプの “a must have" の1つになってほしいと思っています。

 現在はまだSATRIアンプの通電時間は50時間未満、新型電源はせいぜい10時間程度でしかなく、今後もっと変化していくと思います。お蔭様で新SATRIアンプも新型電源も期待以上の実力でしたので、今度は当然CDプレーヤーにも新型電源を搭載したくなります。駆動系にリップル50%減の直流電源を注入したら・・・と思っただけでもわくわくします。簡単に改造できることが分かったので、CDプレーヤー用として出川式電源モジュールを追加注文します。

 宜しくお願いいたします。


(CDプレーヤーを出川電源化する)

 お世話になっております。

 今日は番外編。CDプレーヤーの出川式電源化が完了し、オール出川式電源による音出しをしてみたので、その簡単なご報告です。

 想像もできない激変でした。

 なんて美しい音。

 この瑞々しさ、この神々しさ。こんな美しい音があったのですね。原初、地球のためにデザインされた最初の花は蓮の花とバラの花だったという神話があり、生まれ出たばかりのその光の花をイメージさせるかのような聖なる美しさ。……と言ったら言い過ぎでしょうか。

 美しさは音の生命力。「音楽に魂が宿る」という表現がありもしない妄想や誇張ではないことを初めて実感した瞬間でもあります。聞いているうちに自然に涙が出ました。

 あまりに深くトータルな変化なので、オーディオ的な解説はちょっとできそうにありません。音の美しさとともに、360度自在に広がる音空間のリアリティに唖然とするばかり。次のCDをかけるのが怖い(ちなみに最初に選んだCDはドゥルス・ポンテスのfocus。魂の故郷の香りを想起させてくれるような、私の一番好きな歌手)。

 現行のCDプレーヤーは高級機とは縁遠いTEAC VRDS-15(のオールOSコン化+αモデル)です。オーディオ基板のD/Aコンバータ部の±5VとアナログOPアンプ部の±12Vを1系統の整流回路で賄っていて、ここがニチコンPW25V3300μF×4本、もう一つの整流回路はデジタル回路とサーボ部が共用していて、こちらがニチコンPW25V4700μF×4本という仕様になりました。無論、出川式電源モジュールは両系統ともBC24A10HVerIIです。こんな簡単な改造で、想像をはるかに超えた音が生み出される・・・。

 SATRIアンプと出川式電源という2つの画期的発明を手に入れて、私のささやかなオーディオの旅もついに終息の時を迎えるのか?などと感慨に耽っているところです(とはいえ革新は今後も続くのだろう・・・。

 今度のSATRIアンプ新製品は、SACD対応の新世代DAコンバーターか?)SATRIアンプがマイナーなままでいてほしいと願うのはマニアックなポゼッシブ・ラブ路線でしかなく、やはりもっと(もう少し)メジャーな存在になっていってほしいとは思います。しかしどちらというと出川式電源の方がこれから広く認知されていくのでしょう。それだけのインパクトと普遍性があります。もちろん同列の比較は無意味ですけど。

最初のCDを聴きながらの、ふとしたオーディオ的感想。

 火を入れたばかりの音は、まだ何かしらコンデンサの固さ・紙臭さのようなものが出ているかな? それは当然としても、同時にCDプレーヤーの電源ラインに長々と使われているプアーな極細PVC錫引線の音色も出ている気がする・・・。

 音を聴く前に期待していたのは、ひょっとすると出川式電源は、AC電源ケーブルを含めたケーブル類の性能・性格を超越するのではないかということ。ある意味それは事実だと思います。その半面、そうしたケーブル類の特徴を紛れもない音色として剥き出しにしてしまう鏡のような電源でもあるようです。ということで、今度はCDプレーヤーの電源ラインの変更を実験してみたくなるのでしょうね、きっと。そうなるとやはり金メッキ単線の出番か。

 コンパクトアンプシリーズやAMP-5512(K)はスペースの余裕があるので出川式電源化は楽勝ですし、たとえばAMP-5514も現行の電源基板のまま2連化することはそう厄介ではなさそうですね。今後の展開を楽しみにしています。また宜しくお願い致します。金メッキテフロン単線が入りましたら、8mほど注文させて頂くつもりです。