AP-23アッテネータを聴く
格が全然違う、比較にならない
杉並のS.M様より
『アンプを試作する時にボリュームとヒューズなしで聴いてみると目の覚めるような鮮度の高い音が出てきます。こんな素晴らしい音であればこれで完成、きっと大売れに売れるのではないかと期待に胸を弾ませてボリュームを付け、ヒューズを取り付けると、これが、がっかりするような普通の音になっているんです。アンプ、特にプリアンプの泣き所は、ボリュームとヒューズなんですよね。』というアンプメーカーの技術者の話を読んだことがある。
ボリュームもヒューズも必要悪でどんなにいいものを付けてもやはりない方がいいということらしい。しかし、ないという訳にはいかないのである。
少し前にはラックスからボリュームだけで30万円だか50万円するというプリアンプのC-10が出て、今度のアキュフューズのC-2800もボリュームが売りらしい。こんな高価なボリュームを付けると、どれくらいいい音がするのか聴きたいものだと思っているが、いまだ聴いたことがない。
ヒューズについては、少し体験済みである。プリアンプは、BP PRE-7610を使っているが、買った時に付いていた標準のものをセラッミックヒューズのSBF-1.6Aに換えたら驚くほど一変した。たかだか1000円強でこんなに良くなるのであれば、何故標準仕様にしないのかと思ったくらい変わったのである。
この時はサブゼロ処理のものより、していないSBF-1.6Aの方が、音がかっちりしていいと思ったが、その後、足を銅足に換え、ラックにもスピーカーにもインシュレターを噛ませるなどしたことで全体に装置がセンシティーブになったせいか、今度はサブゼロ処理の方が高域・低域ともに伸びている感じがして、現在はSBF-1.6Asで落ち着いている。
メインアンプは、スローブロウタイプの7Aが規格で、セラミックヒューズに該当製品がないため、某社のクライオ・金メッキ・ジルコン入りの10Aのものにしてみた。石英入りのものもあったが、店の人にきいてみたらジルコン入りの方が人気があるということでそれにしたが、結果は正解である。ぐんと低域高域ともに伸び、引き締まって力強さがより鮮明に出る。しかし、こんなに変わると、どの音がこのアンプ(PRE-7610)の本当のものなのかわからなくなってくる。
さて、前置きが長くなったが、AP-23である。こんな按配の話を聞き経験もしていたので、ボリュームの新型が出て試聴ができるということで、興味深々、早速お願いした。現物は、写真をHPでご覧になればいいが、特に見栄えがするものではない。余程今使っているDALE巻線抵抗アッテネータの方が見栄えがして高級に見える。別段アンプの中にあるもので見るものではないのでその辺はどうでもいいことであるが、見た目は小さくてとても10万円とは見えない。
PCN社の精密巻線抵抗を使った逸品もので高くて当たり前だ、と言われればそういうものかと思うしかない。使用感はDALE巻線抵抗のアッテネータと同じである。抵抗が違うだけで、あとは同じだそうであるので、取り付けたあとの使用感の差はない。2〜3日はエージングが必要とのことであるが、待ちきれず早速耳を澄ませて聴いてみる。
取り替えた直後、あっ、少し違うな、何か伸びやかな感じがするなという印象である。今まで使っていたDALE巻線抵抗アッテネータでも特に不満がなかったのであるが、やはり高域の伸びが違うと聴き取れる。
AP-23を取り付けて1ヶ月経つが、現在の音は本当に素晴らしい。今、書きながらその音を聴いているが、取り付け直後の音とは全く違う。取り付け直後の印象など書いても誤解されるだけだと思うので、今現在の音について以下お話したい。
エージングは2〜3日では不十分のように思う。実力を出すにはもう少し時間がかかる。盤によりどうしてもボリュームの位置が異なるので、いつも使う範囲の抵抗をある程度エージングをするとなると概ね1週間から10日はかかると見た方が良い。1ヶ月経った現在でもまだ良くなり具合が進行しているようで、もっと良くなるのかなとの思いである。
試聴屋さんでは、貸出しは1週間となっているので、その実力を期間内で全部聴き取るには、ボリューム位置を変えないようにしてその変化を聴き取るしかない。別段不満があったわけではないDALE巻線抵抗アッテネータではあるが、AP-23とは
格が全然違う、比較にならない
と言うのがこの1ヶ月経っての正直な感想である。どんな音だと言われると語彙不足で困るが、一番端的に変わったのは嫌な刺激的な音、特に高域の耳に付くところが消えたと言うか、すっきりと伸びた結果、今まで聴くのが少し辛かった、時として音量を落とさないと聴き辛かった盤がすんなりと美音で聴こえるのである。
今にして思うと、高域に硬さがあった、伸びが足りなかったということが良くわかる。声が好きで歌曲には目がないで盤を買うが、ソプラノやテノールの声を張った時、フォルテがどうしても耳にきつく感じることが結構あった。しかしAP-23にしてからはこういう盤が実に耳に心地よく聴こえるのである。最初は高域の伸びを感じたが、時間の経過とともに低域も引き締まって下への音域がぐんと伸びたことが判るようになる。
力強さが加わり瞬発力が高まったので、「どぉーん」が「どん」、「じゃぁーん」が「じゃん」となり、立ち上がり立下りが明解になり、ハイスピードになったように聴こえる。一言でいえば『鮮度が上がり、音の品位が数段ランクアップした』ように感じる。
鮮度は上がっても音触は自然であり、どこにも強調感誇張感がない。音場が広がりノイズレベルが低いため音像が浮き立つ。何時までも聴いていたいと思う音である。
どこかのオーディオショップのHPに、「NAXOSレーベルの盤は音が悪いと言う人が多いが、あれこそいい音です。NAXOS盤がいい音で聴こえる装置こそいい装置です。こちらに来て当店のNAXOSの音を聴いてください。」と出ていたが、まったくそうなった。安くて音は今一のレーベルだったのが、音が良くてかつ安く、言うことないレーベルになったのである。
NAXOSには選曲がよくてメジャーレーベルではなかなか聴けない魅力的な盤が多い。チャイコフスキーの歌曲集など、そうであるが、今までは聴き辛いところがあってなかなか最後まで聴けなかった。しかし、AP-23にしてからは声が甘みをもって清澄に聴こえ、実に耳当たりが魅力的なのである。今まで棚にはあってもなかなか手が出なかったこれ等の盤が、気になるところがなくて聴けるようになった。
装置のことをいつも気にしながら聴いていた盤が、AP-23にしてからほとんどなくなったということは、これは凄いことである。
生き返った、いや、本来の音が出るようになった盤のことを考えると、10万円は安い。DALE巻線アッテネータの6万5千円はAP-23に比べると高い。いや、そうではなくAP-23の10万円が安すぎるのだろう。
1000枚、2000枚と盤は溜まるが、案外いつも聴いているのは限られたもので、一度聴くとそのまま棚で眠っているものが多い。ケーブルだ、コンセントだ、アンプだ、と機器の取換えのたびにこれら眠っているものを少し取り出して聴くが、なかなか息を吹き返さない。AP-23の場合はこうではなかった。単に音が変わっただけではなく、音のグレードが確実にランクアップしたのである。
ボリュームはプリアンプの泣き所という意味がAP-23を使ってみて良くわかった。ボリュームがなかったらPRE-7610はもっといい音がするのだろう。聴けないけど聴いてみたいものである。
とは言っても聴けないことを望んでも仕方ないので、AP-23付きのPRE-7610をもっといい音にする方法として、銅筐体にしたらどうだろう。おそらく敵なしのプリアンプになるものと思われる。こちらは実現できそうであるので期待したいものである。
使用機器
LPプレーヤー |
Micro DDX1000 |
アーム |
Audio Craft AC-3000MC |
カートリッジ |
Ortofon コントラプンクトa |
フォノアンプ |
illusion EAQ-5620TTC |
カートリッジ |
Ortofon MC20マークII |
DAC |
BP DAC-2000 |
プリアンプ |
BP PRE-7610
(V4.3テフロン+V5.1テフロン+DALE巻線ATT) |
パワーアンプ |
Citation XX |
スピーカー |
Apogee Diva |
15年11月22日
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