SCA-7510+DALE巻線アッテネータ試聴記
東京のblueblue様より
待ちに待った「SCA-7510 DALE巻線アッテネータ付き」が届きました。
借りていた「フィリップス金皮アッテネーター付き」を取り外し、新品のSCA-7510と入れ換えました。でも、外見はまったく変わりません。10日近くひたすら聴きこんできた試聴機がすっかり目に馴染んでしまっていたので、新しく買い物をしたという実感が湧いてきません。不思議な気持ちになりました。
『試聴屋』さんには、「今度はまったくの新品なので最初はひどい音がしますが3〜4日すれば変わってきますので、安心してください」というメールをもらっていたのですが、電源を入れて最初にかけたCDの音を聴いた瞬間に、反射的に
「あ、いい音だ!」
という思いが頭の中をよぎりました。かけたCDはキム・カシュカシャン(vla)とロバート・レビン(pf)のブラームス・ビオラソナタ集です。しかし、しばらく聴いているうちにビオラの音が硬く伸びがないこと、ピアノがぼけたような感じで音像が明確でないことに気がつきました。とくにピアノの低音部は聴きづらく、全体に薄い皮膜をとおしてものを見ているような違和感を覚えました。さらに、30分ぐらい聴いていると耳がつかれてしまいました。このCDは買ったばかりだったので録音のせいかとも思い、別なCDに替えてみました。
スコット・ロス演奏のスカルラッティ・チェンバロソナタ集を聴きました。やはりその音には薄らとヴェールがかかっているように聞えます。本来ならもっときらきらと輝くような音が聴けるはすです。やはり聞き疲れします。
次に朝比奈隆指揮・大阪フィル演奏のブルックナーの交響曲を聴きました。低音がブーミーに歪んでいます。バイオリン群の音が一体になって聞え、ほとんど分離していない状態です。
とはいえ、音の質感は「フィリップス金皮アッテネーター付き」に比べれば、粒立ちが細やかなようにも思えます。もっとも、メディアを替えても聞き疲れすることには変わりがないので、やはり100時間ぐらいはエージングをする必要があるのだと考え、その日から5日間電源を入れっぱなしにしました。仕事に出かけている間はCDプレーヤーをリピートに設定して、音楽信号を流しっぱなしにしました。CDそのものは毎日交換しました。室内楽とオーケストラ、それにジャズ、ピアノ独奏と、歌謡曲をそれぞれ10時間ぐらいずつかけました。寝ている間は通電だけにしましたが、夜起きている時間は毎晩4〜5時間、いろいろなジャンルの音楽を聴いては、スピーカーから出る音と比較をしました。
エージングも70時間ぐらいを過ぎてからは、スピーカーで聴く音とSCA-7510でヘッドフォンを通して聴く音との間に差がなくなりました。90時間から100時間を超えたあたりで、解像力ではスピーカーを明らかに上まわるようになりました。しかし、聞き疲れすることには変わりがありません。もっとも、毎日5時間もヘッドフォンで、しかもかなり大きな音で聴いていたので耳を酷使したことによるとも思えます。というわけで、5日目は耳を休ませ、30分ほどしか音楽を聴きませんでした。その翌日はまた3時間ほどCDをかけて聴きこみましたが、あまり聞き疲れするということはありませんでした。やはり耳が疲れていたことが大きかったようです。
この時点で、音のモヤつきは全くなくなりました。オーケストラのそれぞれの楽器の音も聞き分けができるようになっていました。ボーカルはごく自然なリアリティのあるものとなり、ビブラートをかけて歌っているところでは、歌い手の喉のふるえが目に浮かぶほどになっていました。
しかし、無音時でも可聴帯域外のノイズがあるような気がしてなりません。試聴機を借りた時から気になっていた筐体の微小なふるえが影響しているものと考えて、自分なりにチューニングをしてみることにしました。
東急ハンズで0.3mmの鉛の薄板(糊がついています)を買ってきて、カバーを外しその内側に張りつけました。カバーは内側にも塗装がしてありました。塗装をはがして張りつけたほうが効果は大きいとも思いましたが、丁寧に塗装してあるものをはがして傷だらけにしてしまうことがはばかられ、塗装面の上から張りつけました。内寸一杯に張りつけてしまったので、上部のビス穴の周りをカッターでくり貫き、カバーと本体が接触するようにしました(もともとこの部分は塗装をしてありません)。アソビがほとんどないので側面のビス止めには少し苦労をしました。
これで上部と側面の振動はだいぶなくなりましたが、底板は何もしていないので大きな音が出る時には、指先にはっきりとふるえが感じられます。ともあれ、この状態でまたブラームスのビオラソナタをかけて聴いてみました。はっきりと変化が表れました。とくにピアノの音が一層くっきりと聞えるようになりました。ヴィオラの音はまたやや上寄りになって硬くなったような気がします。しかし、
解像度は相当高くなりました。
もっとも、また少し聞き疲れする音に戻ったような気もします。鉛を張りつけたことで機器全体のバランスが変化したせいであろうと考えて、この状態でさらにエージングを行うことにしました。
まる一日おいておなじCDをかけてみましたが、今度はそれほど耳が疲れるようなこともありません。ノイズが激減したような気がします。ヴィオラの音はつややかですし、演奏者の呼吸の音まで聞き取れます。スピーカーも鳴らしてみましたが、格段に差がついています。スピーカーを買い替えたくなってしまいました。ただ、難点を言えば音がややタイトでクリア過ぎ、音場感がいくぶん希薄なことが気になります。これはどうやらインシュレーターの性質によるものと思われます。
トライオードのアンプを購入した時にメーカーの人から教えてもらい、TAOCの製品が制振工学的にきわめて優れたものであるということを知り、価格もそう高くはないこともありすべての機器にTAOC製のインシュレーターを使ってきました。TAOCのインシュレーターはほぼすべて高剛性で振動の減衰効果が高いことが特徴であるように思います。この高剛性という性質が音を硬質なものにしている理由だと考えたのです。なお、私がSCA-7510に使用しているインシュレーターはグラデーション鋳鉄という素材にステンレスのピンが埋めこんであるものです。TITE-25PINという製品で、ピンポイント三点支持で使用するものです。ピンを上にして使用することも下にして使用することもできるもので、ステンレスの受け皿も付いています。私は受け皿は使わずピンを下にして使っています。これがいちばん効果的でした。
『試聴屋』さんにもアドバイスを受けたのですが、音が硬い感じがするのはこのインシュレーターが硬すぎることが音質に影響していることによるらしいのです。
というわけで、また東急ハンズに行って直径30mmの真鍮の円錐形ブロックを三つ買ってきました。それと同時に底板の振動を押さえるために、直径80mm、1mm厚の銅板を二枚購入しました。この銅板は底板に下から両面テープで張り付けます。これはCDプレーヤーの天板が棚板とプレーヤーとの間の定在波で振動を起こした時にTEACの相談窓口で教えてもらったことなのですが、金属にはそれぞれ固有の振動周波数があり、二種類の違った金属を張り合わせることでそれぞれの金属の振動を打ち消すことができるということから考えついたことです。さらに、2mm厚の銅板をTAOCのインシュレーターの寸法に合わせて切ってもらいました。これをインシュレーターとSCA-7510との間にはさんでみるためです。
底板の振動は、思っていたとおりに減衰しました。もっとも、銅板を張っていない部分はまだ少しふるえます。もう少し小さなものを三枚ぐらい買い足して、張りつけるつもりです。
真鍮の円錐ブロックを使用した場合、TAOCのインシュレーターとは明らかに違う音質になります。バイオリンやヴィオラなどの擦弦楽器は、低域の倍音が増してきます。ピアノは大型のグランドピアノのふたを大きくあけて弾いているような音になります。全体に若干エコーがかかったように聞えます。TAOCのインシュレーターよりは音が柔らかいので聞きやすくなりますし、ホールで聴いているような雰囲気がありますが解像度はいくらか低くなるようです。デッドな録音のメディアにはこちらの方が良いかも知れませんが、リバーブまでしっかりと録音されているようなCDにはTAOCのほうが良さそうです。同じ真鍮でも、オーディオメーカーが作っている工作精度の高いインシュレーターならまた違うかもしれません。ちなみに東急ハンズの真鍮ブロックは一個\480円でした。あまり贅沢は言えません。TAOCのインシュレーターとの間に銅板をはさんだ場合は、この中間的な音になると想像されますが、実際にはまだ確かめたわけではありません。加工に時間がかかるのでまだ手元にないからです。
TEACのCDプレーヤーVRDS25XSもセッティングで大きく音が変わりますが、SCA-7510もセッテイングやケーブル類、タップなどの違いで相当音質が変化します。つい先日気がついたのですが、チクマ精密のアルミのタップも、SCA-7510の振動に合せて同じように震えているのです。ですから、この振動は物理的なもの、つまり筐体がリジッドな構造ではないことによるというよりも、電気的なもののように思われます。なお、このテーブルタップの振動は、タップの底に鉛の厚板を張りつけることでかなり解消されました。これは、音質にも明らかに効果がありました。ノイズっぽい感じがほぼ完全になくなり、楽音だけが浮き立つように聞えてきます。
ケーブルも何種類か交換してみましたが、そのたびに音が変わりました。なるべくニュートラルで効率よく信号を伝えるものが望ましいと思います。私が試したのは、電源ケーブルは製品付属のケーブル、ハーモニクスのケーブル、試聴機についてきたもので『試聴屋』さんから頂いたUL規格の電源ケーブル、そしてS/Aラボのケーブルです。ラインケーブルはベルデン、サエク、S/Aラボの三種類を聴き比べてみました。どちらもS/Aラボのものがいちばん解像度が高く、音のバランスも良かったように思います。
最後に気がついたことを一つ。SCA-7510はセッティングでもケーブルや電源などの性質でも忠実に音質に反映しますから、使い方によっていくらでもチューンアップできますが、解像度を高めれば音質はタイトで硬質な音になり、柔らかい残響音の多い音に調整すれば解像度がわずかに損なわれるということが言えるように思います。あとは、自分がどんな音作りをしたいのか、という問題があるだけです。これもSCA-7510の基本性能がきわめて優れており、アンプそれ自体としては非常にニュートラリティが高いということによるものと考えられます。
最近はスピーカーを鳴らすことがあまりありません。もっぱらSCA-7510でヘッドフォンで音楽を聴いています。いままで、いかにしてB&Wマトリックス805Vの持っている能力を出し切ることができるか、ということを基準にしてシステム全体の向上を図ってきたのですが、その努力の積み重ねが虚しいもののように感じられてなりません。本当に新しいスピーカーが欲しくなりました。このヘッドフォンシステムとつりあいが取れるのは、同じB&Wならノーチラスの802クラスではないかと思うのですが、私の経済力ではとても手が届きません。
「SCA-7510 DALE巻線アッテネーター付き」は罪作りなアンプです。
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