SCA-7510+フィリップス金皮アッテネータ試聴記
東京のblueblue様より
試聴屋さんから「SCA-7510完成品フィリップス抵抗アッテネーター付き」を自宅試聴のために貸してもらいました。6月1日に宅急便で受け取りました。
私はオーディオの電気的な仕組みについてほとんど知識を持っていません。真空管やトランジスターがどういう構造をしており、どうやってCDプレーヤーから入ってきた電気信号を増幅するのかということすらも知りません。しかしながら、人並み程度の「耳」は持っていると思います。いままでも、電源ケーブルやテーブルタップを交換するたびに明らかに音が変化したことを聴き取ることができました。これまでも、自分なりにオーディオシステムのグレードアップを図ってきたつもりです。もっともそこには、理論的な根拠があったわけではありません。強いて挙げれば、物理的な振動対策に若干の論理的な裏づけがあったということが言えるかもしれません。そんな私の感想も、自分でアンプを作ってしまうような人たちとは違った意味で参考になるのではないかと思い、試聴して感じたことを発表させてもらうことにしました。
まず、現在の私のオーディオシステムについて簡単に記載しておきます。
スピーカーはB&Wのマトリックス805Vです。専用スタンドを使っています。CDプレーヤーはTEACのVRDS25XS、プリメインアンプはトライオードのTR-2です。テーブルタップはチクマ精密のアルミの6つ口のものを使用しています。電源ケーブル、ラインケーブルはS/Aラボの製品で統一しています。といっても、すべて切り売りで買ってきて自分でプラグを取り付けたものです。したがって、クライオ処理はしてありません。スピーカーケーブルにはオヤイデ電気の6N単線銅2mm径のものを、テフロンチューブをかぶせて、バイワイヤリングで使っています。ラックはタオックのSS-5というものを使っています。もっとも、CDプレーヤーとプリメインアンプは、タオックの棚板を取り外し、同じ大きさに切った御影石の板の上にセッティングしてあります。御影石の裏面には0.3mmの鉛の薄板を張ってあります。TR-2にはタオックのTITE-26Rという鋳鉄製の脚をねじ止めしています。さらに、CDプレーヤーとアンプの脚の下には、上から14mmサクラ材、5mm黒檀、2mm銅板の順に重ねたものをインシュレーターとして使用しています。また、アンプとCDプレーヤーの上にはTGメタルの鉛のインゴットをそれぞれ15kg、10kg、載せてあります。鉛インゴットの下面には2mmのコルクを張ってあります。スピーカーの上にも5kgの鉛を載せてあります。
私はこの自分のシステムを結構気に入っています。トライオードのアンプも、以前使っていたサンスイのものに比べればはるかにいい音がすると思っていますし、ケーブル類も音がストレートに伝わっているような気がします。オヤイデの6N銅線はエージングに100時間以上かかりましたが、前に使っていたアクロテックの6Nのケーブルよりも解像力に優れ、音の情報量が多いように思います。
ではなぜ、SCA-7510が必要なんだ、と思われるでしょうが、トライオードのアンプにはヘッドフォン端子がついていません。以前、サンスイのアンプを使っていたころには、相当大きな音でならしても、どこからも苦情が来なかったのですが、トライオードに替えたらそれほど大音量で聴いているつもりではないのに、苦情を受けるようになりました。私はどちらかというと大音量派、しかも完全な夜型人間です。ゲインを下げてスピーカーを鳴らして聴いていてもフラストレーションがたまるばかりで、音楽に集中できません。という訳で、ヘッドフォンアンプを探していたのですが、いままでに試聴したものはどれも気に入りませんでした。トライオードではこの夏にはヘッドフォンアンプを発売する予定があるというのでそれを待っていたのです。ところが偶然、バクーンプロダクツさんと『試聴屋』さんのホームページでSCA-7510のことを知りました。ためしに電話をして、購入の予定がなくても試聴させてもらえますか、と聞いたところ構わないということなのでお願いしました。
これからが本論です。送っていただいたSCA-7510には取扱説明書のほかに、簡単な注意書(というか、エージングに関する説明)が入っていました。何度か電話でも教えていただいたのですが、本当なら100時間ぐらいは通電する必要があるとのこと。確かに、最初に聴いた音は、高音が不自然に強調されているようで、音も硬い感じがしました。ボーカルは声がかすれて聞えます。ピアノは高音と低音のバランスがかなり不自然でした。全体にモヤがかかったような感じの音でした。オーケストラは各楽器の音が分離しておらず、一塊になって聞えます。ダンピングファクターもよくないようです。休みの日に、ヘッドフォンをつけたまま連続18時間CDをかけっぱなしにしました。いったん電源を切ってから、その翌日に再度電源を入れCDはかけないまま12時間ぐらい通電しました。その後いろいろなCDをかけて聴きこんでみましたが、50時間ぐらい通電したあたりから、急激に音質に変化が認められました。
まず、高音の硬直した耳障りな感じがなくなりました。低音が大分よく出るようになりました。全体のバランスも自然なものになりました。でも、音の余韻というか、空気感のようなものが不足しているように感じられました。さらに20時間から30時間ぐらい使い込んでいったら、またフッと音の感じが変わりました。音場感がはっきりと感じられるようになり、中低音の力強さが出てきました。ダイナミックレンジも広がったような気がします。独奏器楽曲、とくにバッハの「リュート組曲」(ホプキンソン・スミス)は、非常にリアルに聞えました。ためしにトライオードのアンプの電源を入れ、スピーカーでも鳴らしてみましたが、SCA-7510(+オーディオテクニカATH-W11R)のほうが音の粒子のようなものがよりくっきりと聞えます。もっとも、音の厚みというか力強さでは従来のシステムの方が上まわっているように感じられました。
それからグレン・グールドの「ゴールドベルク変奏曲」を聴きました。ヘッドフォンからグールドの歌っている声がはっきりと聞えます。スピーカーのほうはそれほどはっきりとは聞えません。
次に高橋竹山の三味線を聴きました。音場感はSCA-7510の方が上、パンチ力はトライオードのほうが勝っています。
それからちあきなおみの「喝采」を聴きました。ボーカルの生々しさではSCA-7510の方が優れているように思いました。ただし、伴奏の弦楽器群の音がやや上よりに聞えます。とはいえ、もうここらでスピーカーから聞える音とヘッドフォンから聞える音との間にはほとんど差がなくなってきています。
トライオードのアンプは相当気に入っていたので、この結果には少なからぬショックを受けました。ほかにもいろいろなジャンルの音楽を聴き比べてみたのですが、解像度はSCA-7510の方がやや上、パワーではトライオードが優っているというのが、大まかな印象でした。SCA-7510でスピーカーを鳴らしてみたかったのですが、ケーブルが端子に入らないので、後日バナナプラグを購入してから比較してみることにしこの日は試聴をいったん取りやめました。
その後、二日ほど毎日12時間ぐらいずつ、様々なCDをかけたり、CDはかけないまま通電したりと、エージングを行いました。試聴機が届いてから五日後、バナナプラグを購入し、スピーカーとつないでみました。片チャンネル4.5Wということでしたので、ちゃんと鳴らないのではないかと思いつつ、B&Wマトリックス805VとSCA-7510をつなぎ、CDをかけてみて驚きました。ボリュームをいっぱいにしているとはいえ、かなりしっかりした音で805が鳴ったのです。以前サンスイのアンプを使っていたころと比べたら、明らかに鳴りっぷりがいいのです。トライオードと比較すれば、中音の厚みがやや弱いような気もしましたが、音そのものは甲乙つけがたいという印象でした。バナナプラグをつけたままトライオードのアンプを鳴らすということも試してみました。ケーブルをダイレクトにつないだ場合に比べて、明らかに音質の劣化が認められ、全体に力のない音になってしまいました。ということはSCA-7510でもバナナプラグを介さずに直接スピーカー端子にケーブルをつなぐことができれば、もっと力強い音になるということだと思います。
合計して200時間ぐらい通電したのではないかと思いますが、いまはSCA-7510(+オーディオテクニカATH-W11R)のほうが、トライオードTR-2+B&Wマトリックス805Vよりも艶のある臨場感にあふれた音を聴けるような気がします。もっとも、2〜3気になることがないわけでもありません。低音のダンピングファクターがあまり良くないように感じられること。手でふれてみるとアンプ本体が緩やかに振動しており、これが音の粒立ち感とでもいうようなものを損ねているように感じられることなどです。
とはいうものの、SCA-7510は私の予想をはるかに上まわる良い音を聴かせてくれるアンプであるということが分かりました。というわけで、結局、5月のセール対象品「SCA-7510完成品DALE巻線抵抗アッテネーター付き」を注文してしまいました。今度はこの製品がどんな音を聴かせてくれるのか楽しみにしています。
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