PRE-7610+AMP-7511M試聴記(2)
東京のshuk様より
ガラス巻線抵抗とDALE巻線抵抗比較試聴
比較試聴の前提
1.先入観を持たず、心を無にして試聴に当たる。
2.自分の耳、自分の感性・好みだけで判断する。
3.出来るだけ多くのジャンルからソフトを選ぶ。
比較試聴のためのセッティング
セッティング図
試聴方法
1.使用アクセサリーは固有のキャラクターがあるため同一の物を使い、接続条件は全く同じ条件とする。
アクセサリー類
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SP切替機 LUXMAN製
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ATのパラレルプラグ
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接点が増え音質的には好ましくないが、SP端子やセレクターの作りがしっかりしており、また瞬間切替が可能なため一時的に使用している。
スピーカー切替機も、同一CDPの出力を分岐するため一時的に使用。
気休めとしてGOLD CONTACT LIQUID"SETTEN"79を使用。
2.両機種の音を瞬時に切り替える。セレクターに負担がかかるしスピーカーやアンプにとってもよくないことはわかっているが、あくまで試聴の為の緊急処置と割り切って一時的に断行する。完全なブラインドテストとするため、サポーターに依頼してこちらのサインで瞬時に切り替える。
試聴ソフト一覧
山本英次 「スウィング・アバウト・イン・ジャズ」
ビル・エバンス 「ワルツ・フォー・デイビー」
ヨーヨー・マ 「コダーイ 無伴奏チェロ・ソナタ作品8」
カーティス・フラー 「ブルース・エット・パート・U」
マイルス・デイビス 「カインド オブ ブルー」
上記セッティングで比較試聴を始める。
条件的にはガラス巻線機はエージング不足(200時間程度)の為、DALE巻線機とでは分が悪い。SPセレクターは少々乱暴だが、素早く回せば瞬時に切り替え可能なので、タイムラグはない。
試聴方法は、リファレンス(山本英次 ピアノトリオ 「スウィング・アバウト・イン・ジャズ」 Cジャム・ブルース)を使い、以下の方法で比較した。
- それぞれの機種で1曲通しで聴く。
- 曲の途中で自ら切り替えて聴く。
- 全くのブラインド試聴。切り替えは第三者に依頼して、こちらの合図のもと曲の途中で瞬時に行う。
- ブラインドで機種名を言わず第三者に何度か切り替えてもらう。切替のサインだけ出してもらう。つまり「今切り替えた」と言ってもらう。
1では、両者の違いははほとんど分からない、というよりも全く同じに聴こえた。難しいのは特定のポイント-例えばピアノのテーマ部分が終わり、展開部に差し掛かった直後の高音部の響きと余韻-に注目していても、1曲目が終わって再度別機種で聴き始めると、切替直後の音が強烈に記憶に残っているので、最初の機種の印象がなかなか思い起こせない。極めて曖昧で主観的な判断になってしまうことだ。漫然と聴いていると記憶音は3分位ですぐに忘れてしまう。インターバルが長くなればなるほど印象が曖昧になってくる。
2では、こちらの意識下にどうしても「両者は必ず差異がある」という先入観があるため、自然体では聴けない。こっちは「ガラスだ、ガラスだ」と自分に言い聞かせ、次に今度は「DALEだ、DALEだ」と意識を集中させて聴いている。つまり「違いを探し出せ」と脳に命令しているわけで、おのず差異の出る聴き方をしているわけだ。聴き込む過程で音像を自分なりにイメージ化している。そこに持ってきて、DALEにする前評判がフィルターとしてかかっているから、DALEが良く聴こてしまう。
結局3の方法で本格的に試聴を始めた。勿論聴く前に機種名は伏せてもらう。こちらの合図で瞬時に切り替えてもらい、自分の好みの方に○を付け、同じ曲で10回行って○の多い方がどちらか確認する。評価は強制採点で、必ずどちらかに○をする(どちらともいえないはなしにする)。
試聴ソフトを以下の様に替えてテストしてみた。
- ピアノトリオ Bill Evans Trio [Waltz For Debby]
- ピアノソロ Keith Jarrett [The Melody At Night With You]
- コンボ Sonny Rollins [Saxophone Colossos]
- ハードバップ Phil Woods {Woodlore]
- 室内楽 モーツァルト フルート協奏曲第1番 小澤征爾指揮 水戸室内管弦楽団
- バイオリン メンデルスゾーン ウ゛ァイオリン協奏曲ホ短調作品64 アイザック スターン指揮 フィラデルフィア管弦楽団
- ギター 村治佳織 [カウ゛ァティーナ]
- チェロ ヨーヨー マ 「コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ作品8」
- オーケストラ ストラビンスキー バレエ[春の祭典]
ピエール ブーレーズ クリーブランド管弦楽団
- ボーカル Cassandra Wilson [Rendezvous]
結 果
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ジャンル
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備考
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ガラス
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DALE
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Jazz
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1.ピアノトリオ |
Bill Evans |
4
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6
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2.ピアノソロ |
Keith Jarret |
3
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7
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3.コンボ |
Sonny Rollins |
7
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3
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4.ハードバップ |
Phil Woods |
5
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5
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Classic
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5.室内楽 |
モーツァルト
フルート協奏曲第1番 |
6
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4
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6.バイオリン |
メンデルスゾーン
バイオリン協奏曲ホ短調 |
6
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4
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7.ギター |
村治 佳織 |
3
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7
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8.オーケストラ |
ストラビンスキー
バレエ「春の祭典」 |
5
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5
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Vocal
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9.ポップス |
Michel Franks |
6
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4
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10.ジャズ |
Cassandra Wilson |
4
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6
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ついでに4の方法も試みた。同じ場所(フレーズ)のところを何度合も切替え好みの方に○をつける。こりゃもうパラノイアの世界だ。なんだか本当に「オタク」っぽくなってきた。正月早々部屋に閉じこもり 「ハイ」「ハイ」と合図を送りながら同じ曲を何度も何度も切り替えている姿を他人が見たらキ○ガイと思うかもしれない。
しかし全く同じ条件下で瞬時にガラスとDALEを比較できる幸運に恵まれたのだから、試聴屋さんには感謝しなくてはならない。そしてこのような偏執的で神経衰弱になりそうなブラインドテストはもう今回限りでやめておこう。貴重なデータも取れたし、あとはのんびり美しい音楽の世界に浸っていこう。
結 論
熱気溢れる50年代のハードバップを聴く限り差異は認められない。3の方法でハードバップを聴きながら違いを当てられる人はいないのではないかと思う。ちなみに、音に対して純粋無垢?で何の先入観を持っていない私の子ども4人(7歳〜18歳)に登場願い、テストしてみたところ4人が4人とも「同じだ」と答えた。もっともこれは比較試聴としては若干問題はある。音に対する自分のはっきりとした座標軸を持ち合わせていないとともに、仮に感性で違いが分かってもそれを表現する語彙能力がないため安易に同じだと答えてしまうと思う。ECM録音のキースジャレットのソロでホール感とピアニシモとで若干の違いをかろうじて聴き取れた。DALEはピアノの余韻がホールに消え行く様が美しい。室内楽のホール感やバイオリンの響き等も、正確には抵抗の材質が違うのだから、音にも差異が出てくるはずだが、残念ながら私の耳では明確な違いを聴き取ることはできなかった。
総じて分析的かつ神経質な聴き方をしない限り、両者の違いは分からないのではないか。特に瞬間切替では、高レベルの音質ゆえ判断に迷った。最終的には自分の好みか否かによるが、それすらも多分に聴き手の状態や気分によってその都度変わるような気がする。
また比較試聴の方法にも問題がありそうだ。今回は貸し出し期間が制限されていた為(それでも正月を挟んで2週間も時間を頂いたので条件としては恵まれていたが)、このような瞬間切替という方法を試みたが、特定の音色とか楽器とかの部分部分ではなく、トータルとしてどちらの音質の方が自分の好みに合っているかを判断するには十分な聴き込みが必要ではないかと思われた。ガラス巻線機を2〜3ヶ月聴き込み、その音に十分慣れたあと、DALE巻線機に交換する事によって、初めて微妙なディティールの違いを確認できるのではないかと思う。
コスト/パフォーマンスと主に聴くジャンル(JAZZ とりわけPIANO-TRIO)を考えるとガラス巻線になる。音がカッチリとして明確感がある(決してガラスというイメージからくるものではない)。しかしそれが長く聴いていると往々として聴き疲れしそうな印象を受けた。最終的にDALEに決めた決定打は無色透明感とクリアーさそして何よりピアノの余韻だ。但し、今回の選定基準は純粋に音質的要素だけはなく、後で「あー、あの時DALEにしておけば良かったな」と後悔しそうな予感がしたのと、ミーハー的だがブランド志向が働き、ためらいはあったもののDALEを選んだというのも正直なところあった。
試聴後記
エキセントリックで神経質的な試聴をした割には、試聴結果は平凡な一般論で締めくくられ、試聴記もダラダラ書きとなってしまいました。しかし今回の試聴は今までとは次元の異なる音質の世界で、このような機会を与えてくださった試聴屋様には重ねて御礼申し上げます。
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